日本財団 図書館


 

移動体衛星通信だけでなく、移動体通信全般では、移動体側の通信機の小型、簡易化、特に空中線のそれが要求され、これらは現在の技術的な進歩が著しい一つの分野であることは、町で見掛ける小型携帯用電話機からも明らかである。船舶用の移動体衛星通信が開始されたのは1978年の末で、新しくその目的に割当てられたLバンド(1.5GHz帯)を使用し、径1m前後のパラボラ空中線を使用する船上装置が導入された。1979年にはインマルサットが組織化され、60数か国の旧ソ連を含む世界の海運国が加盟をし、主要海運国には、径20m程度のパラボラ空中線をもつ海岸地球局と衛星ごとに通信網管理局が設けられている。1990年から1992年にかけて、その第二世代の衛星が図8・3に示す4衛星位置に打上げられ、1994以降には第三世代の打上げも計画されている。このマリサットシステムとその船上装置は、インマルサットでも1標準Aとして原則的に引継がれている。更に、従来から検討されていた無指向性の空中線を使用し、印刷電信のみの標準C(インマルサットC)をGMDSSの導入を機に、その一つの主力のシステムとして導入され、更に近い将来ディジタル音声とデータ通信の標準Bと径40?程度の空中線を使用して、音声の品質を若干犠牲にした標準Mが導入される計画である。また、初めにも述べたようにインマルサット衛星を利用する自動浮揚型のEPIRBも制度化されているが、現在のところ、わが国では使用は認められてない。
実験衛星であるが、わが国の技術試験衛星V型(きく5号)では、運輸省と郵政省が中心となって各種の世界で最初の移動体通信の実験が実施された。また、静止衛星以外の衛星を便用する移動体通信衛星としては、低高度極軌道の小型の衛星77を使用するイリジウムと名付けられた(イリジウムの原子番号は77)システムの提案があり、衛星までの距離が大幅に近いので、簡単な通信機の使用が可能となる。
EPIRBによる遭難通信を中継する衛星は極軌道の低高度衛星である。このような衛星のための国際組織COSPAS/SARSATができた契機は船舶よりは、むしろ航空にあった。アメリカには十数万機の個人用の小型機がある。これらを含めて航空機には船舶のEPlRBに相当するものとして、ELT(Emergency Locator Trans−mitter)がある。このELTは送信周波数が121.5/243MHzで、旅客機が海上に不時着したときに、いかだに持込むような形式のものと、小型機の機体に空中線を取付けておいて、墜落のときの衝撃で送信機のスイッチが自動的に入る形式のものがある。
このELTの周波数では、山間の谷へ不時着したときなどには、その電波が地上局に届かないので、その捜索に多くの努力と時間を必要とした。そこで、衛星を利用して遭難信号を受信し、その位置を測定しようとするシステムを開発することであった。また、アメリカその他2,3の国では、この周波数を船舶のEPIRBにも使用するようになっており、これが1986年7月の海上人命安全条約の二次改正(救命設備関係の改正)の際にEPIRBとして採用された。GMDSSの完全実施まで

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION